2012年5月31日木曜日

彼我の差はかくも広く、深く、そして遠い

昨日、一昨日と2日にわたって、AAM(米美術館協会)と、そこが設立したCFM(Center for the Future of Museums)の取り組みなどを紹介し、統計データやマーケティング、将来予想と現状把握、モニタリング活動の必要性について書いてきた。

さて、CFMには、Research Roundupというセクションがあり、その最新のものとして昨年11月7日にアップされた資料がある。
Tools for the future
The Near future
Social Trends, etc.
Other Articles, essays and recent items of interest
Refresh and reflect
といった区分けがあり、Tools for the futureには5項目、7つの資料がピックアップされている。

その中から、「10 Internet Technologies Educators Should Be Informed About」を取上げてみる。これは、EmergingEdTechをやっているK. Walshが2011年9月に公開した資料だ。
  1. ビデオ&ポッドキャスティング
  2. デジタルプレゼンテーションツール
  3. コラボ&ブレストツール
  4. ブログ&ブロギング
  5. ソーシャルネットワーキングツール
  6. レクチャーキャプチャー
  7. 学生レスポンスシステム&投票・調査ツール
  8. 教育ゲーミング
  9. オープン教育リソース
  10. iPad&タブレットデバイス
タイトルの通り、「教育関係者が知っておくべき10のインターネットテクノロジー」だが、こういったソーシャルトレンド、予想、社会における博物館の役割に関係するような参考資料を適宜アップデートしている。

それだけではなく、博物館に関連した情報を収集するため、未来予測に関連したり、カルチャー観光に関するブログをリストアップしたり、ソーシャルメディアトレンドや果てはロボットに関するブログまでリストアップしている。

また、下のようにGuide to Scanning for Changeというスライドも提供している。
この至れり尽くせりといった情報提供があり、各個別博物館の取り組み、トライ&エラーを見聞きして、あるいは内部資料としてのケーススタディなどがあって初めて、2034年に存在できる博物館に成り得るということかもしれない。

彼我の差は、現状認識と、調査・情報収集を元にした未来予測の力に他ならない。

そして今、MoMAのTwitterフォロワーが100万人を越えている時、
日本の美術・博物館で最大のフォロワーを抱えている森美術館が26,000人台なのを知り、
著名美術館のいくつもが、Twitterアカウントを運用していなかったり、アカウントはオープンしているがタダの1回もツィートしていないのを見ると、ここにある差はかくも広く、深く、そして遠いと感じる。

2012年5月30日水曜日

35年後の博物館と社会:トレンドと考えられる将来

「Museum & Society 2034: Trends and Potential Futures」というレポートが、AAM(米美術館協会)が設立したCFM(Center for the Future of Museums)によって公開されている。
出典:CFM Museums and Sociey 2034: Trends and Potential Futures

これは、2009年から35年後の2034年に美術・博物館や社会そのもの、それを取り巻く環境がどうなっているかという予想を行ったレポートだ。

巻頭に、「予想を立てるというゴールは将来を予言することではなく、今、意味のあるアクションを取るために知っておくべきことを明確にすることだ」という未来予測学者、Paul Saffoの言葉を引いている。

内容は、アメリカ国内の人口に占める人種分布変化・高齢化、就労人口の男女比率変化、エネルギー価格変動、不況、貧富格差、コミュニケーション手段の継続的な革新、コンテンツのデジタル化、コンテンツ流通のデジタル化が、社会や美術・博物館に対してどんな意味を持つのか、どういう影響を与えるのかをまとめている。

そして、2012年版のトレンドウォッチも上がっている。
出典:CFM  TrendsWatch 2012: Museums and the Pulse of the Future

そこで取上げられているトピックは何かと言うと、「クラウドソーシング」「モバイル」「AR(拡張現実)」などだったりする。

先週、「ブルックリン美術館のクラウドソーシング(速報)」を取上げたばかりだが、3月か4月にリリースされたばかりの2012年版トレンドウォッチの先を行っているような美術館もいるのが現状だ。

参考:ブルックリン美術館のクラウドソーシング(速報)

そうした現状を踏まえると、レポートの表紙の中にある大きなビルのうち、どれかはアメリカの美術・博物館のはずだと思えてくる。もし、それが35年後であったとしても。

同じような表紙の中に日本の美術・博物館もいてほしいのだが、そのためには将来の予想と現在を取り巻く環境を把握し、動向をモニターしていなければならない。

と、考えるとどこかが音頭を取ってやってほしい。

それは全国美術館会議だと思う。


-この項明日に続く

2012年5月29日火曜日

全国美術館会議に必要な委員会、研究部会は?

全国美術館会議という団体がある、全国364館(国立8館、公立228館、私立128館)、そして賛助会員が31社加盟している。そこには7つの研究部会、保存研究、教育普及研究、情報・資料研究、小規模館研究、ホームページ部会、機関紙部会、美術館運営制度研究部会がある。

5月28日には徳島の大塚国際美術館で第61回全国美術館会議総会が開催されていた。
3年ごとに文科省の社会教育調査があり、そこで9分類の博物館数や入館者数統計があるので必要がないと言えば必要がないが、この種、団体があると一般的に各種統計、調査などのデータを提供していることが多いので、独自のもう少し詳しい調査データがあればと期待していたが、そういったものはなかった。

もうひとつ、期待していたのは、研究部会に「マーケティング」的な活動をしているものがあればということだったが、これも見あたらなかった。(見落としていた場合、ご教授ください)

同様な団体は、世界的にはICOM(International Council of Museums)があり、米国にはAAM(American Association of Museums)がある。そのAAMにはMBO(Museum Benchmarking Online)というデータがあって、
  • 売上、コスト
  • 人員(雇用、ボランティア、人件費)
  • 入館者数、入館料
  • 教育
  • 寄付
  • 運営コスト
などが入手できるようになっている。

また、AAMでは5月31日には「リサーチ&マーケティング」、6月5日には「ミュージアム・ビジネス・プランニング」が予定されている。

「リサーチ&マーケティング」
AAMのPR&マーケティング専門家ネットワーク委員会とニューヨーク植物園がコラボして、
  • マーケットリサーチが、如何にして将来のミュージアム来館者を理解する切り口となるか、また彼らがミュージアム体験から何を求めるのか
  • 電話、オンライン調査、そしてソーシャルメディアツールを使ってオーディエンスの視点を活用するトレンドのアップデート
  •  政府やその他ソースから資金を獲得するためにどのように経済的影響の調査を活用するか
    「マーケティングゴールにマッチする調査手法の調整」
    「文化観光と文化オーディエンスの理解」
に関するセミナーを開催する予定だ。

「ミュージアム・ビジネス・プランニング」
NY美術館協会、AAMなどがコラボして、「非営利組織としての価値および優先事項を保持しながら、ミュージアムは一般事業会社のように運営するようプレッシャーを受けていると感じることが増えている。一般事業会社のベストプラクティスをミュージアム運営に組み込むことに意味があるが、困難をともなうチャレンジとなる。このWebinarでは、ビジネス・プランニングに必要となるプロセスを検証する」として、
  • 施設能力・リソースをベースとしたプランニングからのシフトに必要となるものは
  • 施設の基本的ビジネスモデルをどのように明確化し、分析するには
  • 「カスタマー」「投資家」と「ビジター」「ドナー」の差異
  • ビジネスプランを構築するために知るべき情報およびデータとは
  • 誰が参加し、何に対して責任を持つのか
  • 利益あるいは損失を越える成功をどのように計測するか
といったことを、ライブWebinarで配信する予定だ。

AAMにどのような委員会、研究部会的なものがあるかはよく分からないが、統計データがあり、リサーチ&マーケティング関連のセミナー、Webinarも開催している。

自施設だけでは何をやるにしても判断材料がない。どのようにやるべきかといった知見の蓄積もない。そこに、他施設のデータを集めたベンチマーク統計があって初めて比較・対照することができる。そして、そこを踏み台にして、現状を如何に打破するか、拡張・拡大するかといった考え方、手法、事例を学ぶこともできるサービス、資料があって初めて最終ゴールに近づくことができる。

そんなデータ、資料をAAMは提供している。

それにしても、ライブWebinarとは...。米国内ではもう一般的なセミナー形態になっているが、それを美術館団体でも提供する時代になっている。国内ではPDFファイルのダウンロード提供もままならない所がいくつもあるというのに。

さて、AAMが提供するコンテンツを見れば見るほど、全国美術館会議にも統計データ、マーケティングに関する委員会、研究部会が必要だと思いますが、いかがでしょうか?

-この項、明日に続く

2012年5月28日月曜日

スキー場はユーザレビューをリンクするべきですよ!

先週、「米国のスキー産業が加速するソーシャルメディア戦略」で紹介したWhistler BlackcombのWebサイト末尾左には、各種ソーシャルメディアスペースへのリンクがある。

参考:米国のスキー産業が加速するソーシャルメディア戦略

その中の右端にある、フクロウのようなロゴが、トリップアドバイザーだ。
世界最大の旅行情報(クチコミ・レビュー)サイトであるトリップアドバイザーへのリンクをなぜ、Whistler BlackcombのWebから貼っているのだろうという疑問が湧く。

リンクをクリックすると以下のページへ飛ぶ。

カナダ、Whistler地方のクチコミ情報2位にWhistler Blackcombが来ており、382件のレビューが上っている。

「なんだ2位なのか」という方もおられるだろうが、1位は「PEAK 2 PEAK」というゴンドラに関するレビューで、それは2008年にWhistler Blackcombが建設したものだ。ということで、1位、2位はWhistler Blackcombに関するもので、8位と9位もWhistler Blackcombだ。

施設側がいくらしゃかり気になって、「うちのスキー場はいいですよ」 と声を枯らしても、ひとつ、ふたつネガティブなレビューがあればユーザの「行く気持ち」はそこで断たれかねない。しかし、ひとつ、ふたつ、あるいはそれ以上、ポジティブなレビューがあれば、ユーザの「行く気持ち」に拍車がかかること請け合いだ。

それもトリップアドバイザーがやっているようにFacebookで友人関係にあるユーザのレビューが出てくれば、「もう即、予約」という話になってくる。

日本でも同じだ。日本版サイトで「日本のスキー場」を検索すると、ページトップ右上に「トリップアドバイザーはFacebookを活用して、パーソナライズされた内容を提供します」とある。


18件のスキー場レビューが上っている(ただし、検索結果は各ユーザごとのアクセス・検索履歴によって変動する)。

例えばトップに挙げられている「山形蔵王温泉スキー場」は32件のレビューがあり、「とても良い」が19件、「良い」が11件だ。雪質が良い、秋には紅葉がきれい、日本有数のビッグゲレンデ、樹氷のメッカ山形蔵王といったレビューが並んでいる。そして、各レビュアーに対して、何人もの人々が「役に立った」と評価しているし、それぞれのレビューに対して個別に「役に立った」と評価している。

こういったレビューとユーザ評価を「トリップアドバイザー」を利用するユーザだけに独占させておく手はない。本当にもったいない。だからこそ、Whistler BlackcombはWebページのトップからリンクを張っているわけだ。

Whistler Blackcombのように年間200万人以上のスキー客を世界中から集め、2億㌦以上の売上を上げる世界的なトップリゾートであっても、こういったユーザレビューサイトの力を借りている。いや、借りなければユーザの信頼を獲得できないことを理解していると言った方が正しい。

ユーザの情報・コンテンツ制作力、発信力、共有力が、マスメディアを支配するような一般事業会社のそれを上回っている現在、どんなに支配的な集客施設であったとしても、独自のプロモーションやマーケティングで目標を達成することなどできない。それを理解しさえすれば、ユーザの力を借りる、ユーザと対等な立場からのコミュニケーションをオープンに行いさえすれば、目標に近づくことができる。ユーザの信頼を勝ち得ることができる。

「いや、うちのWebでもちゃんとユーザのレビューを掲載している」という施設もある。しかし、施設が管理・コントロールしているスペース内のレビューを信頼するユーザより、第3者スペースでのレビューを信頼するユーザの方が多い。そして、第3者スペースでは、自分のクチコミを自由に書き込むことができるが、施設Webスペースでそんなことができるだろうか。ネガティブなレビューを書き込むことができるだろうか。

どこのスキー場やリゾートのWebサイトへアクセスしても同じようなコンテンツが並んでいる。どこにするか決める決定的なポイントを見つけるのは難しい。候補に挙がっているスキー場、リゾートを利用したことのある知人・友人がいれば別だが、目的地を選択する際、利用者のクチコミをまずチェックするようになるのにそんなに時間はかからない。

そして、そういったクチコミは施設の公式Webサイトとは関係のない、レビューサイトや、Facebook、Twitter、ブログなどを経由して広まっている。ということを理解すれば、Webサイトだけでの情報提供や集客は難しく、ソーシャルメディア対応が必要だなとなる。その結果が、Whistler BlackcombがWebページのトップからリンクを張っている理由だ。

トリップアドバイザーの日本人ユーザ数はまだ数百万人程度(2009年9月で200万人近く)だが、この数百万人程度がソーシャルメディアを経由して数千万人に影響を及ぼすことを考えると、「ユーザレビュー」サイトとのリンクは必ず必要なものだ。

出典:InternetWatch TripAdvisorのCEOに聞く

2012年5月25日金曜日

米国のスキー産業が加速するソーシャルメディア戦略

National Ski Areas Association(NSAA)という組織が米国にある。米国にあるウィンターリゾートの業界団体で、スキー・ボーダーの90%を集客している325の施設が加盟している。他に472社のスキー・ボードの製造、販売などのサプライヤーも加盟している。

そこが1978・1979年シーズンからのスキー場利用者数を出している。2011・2012年の中間報告を含めてグラフ化してみると下のようになる。(縦軸は100万人単位)


1978・1979年シーズンは5,019万人が利用し、2010・2011年シーズンは6,054万人と今までの最高記録を塗り替えたシーズンだった。1978・1979年シーズンを100とした場合、2010・2011年シーズンはインデックス121という歴史的なシーズンだった。ところが、2011・2012年シーズンの利用者は15%ダウンして5,080万人(インデックス101)にまで落ち込んでしまった。

NSAAは、2011・2012年シーズンの中間報告でいろいろと理屈をこねくり回して、降雪量が確保されれば来シーズンには回復するだのと、利用客数の落ち込みを説明している。

もうひとつ、NSAAにはスキー場数の統計もある。その統計と上のグラフを重ね合わせると下のグラフになる。(右縦軸は100万人単位)


統計を取り始めた年がずれているが、1982・1983年シーズンに735か所だったスキー場は2010・2011年シーズンには486か所にまで減っている。当然、年ごとの降雪量などによってオープンするスキー場の数は変動するけれど毎年、減っていることは一目瞭然だ。

1982・1983年シーズンと比べて34%もスキー場数が減少したにも関らず、スキー客は増えていたのが過去10年間だったが、2011・2012年シーズンは過去2番目にひどいという落ち込みを経験したわけだ。

この図から推定できるのは、スキー場が減った分、大都市から近いスキー場、交通の便のいいスキー場、スキー以外のアトラクションを備えたスキー場に利用者が集中している。2011・2012年シーズンはどのスキー場も積雪が少なく利用者が減った。あるいは、交通の便のいい大規模なスキー場が多くの利用者を集め、便の悪い中小規模のスキー場が利用者減少に苦しんでいる。また、2011・2012年シーズンの利用者減少がスキー場の閉鎖を加速させるかもしれず、その結果、大規模スキー場への一極集中化がより進むのではないかということだ。そして、大規模スキー場同士の集客バトルがより激しさを増すだろうということだ。

大規模スキー場、例えばカナダのWhistler Blackcombの場合、年間200万人前後の利用者を集めて2億㌦以上の売上をあげている。その利用者の25%がカナダ、28%が米国、残りの47%が北米以外の海外からとなっている。米国のスキー利用者数が5000~6000万人前後で推移している中、Whistler Blackcombほどではないとしても大規模スキー場はどこも海外からのスキー客売上にその多くを依存しているのではないだろうか。

マーケティング予算がたとえどんなに潤沢であっても、全世界のスキー客にTVCFを打つことはできない。 各国の新聞、スキー専門誌などに広告を出稿することもできない。米国内のマスメディア露出が全世界に波及するわけでもない。各国の旅行業者を集めたスキーパッケージ案内、施設案内をしても効果は知れている。旅行社・エージェンシーが企画、販売した割引ツアーで客数は確保できても、結構なコミッションを支払うことになるので、手間がかかる割には利益率は低く、できることなら中止したい。

それではどうするかというと、北米、特に米国で最も日常生活に浸透し、大きな影響を与えているソーシャルメディアの積極活用だ。英語で発信しておけば、少なくとも米国やカナダにスキーをしに来ようとする利用者・ユーザにはリーチする。米国、カナダというローカルな市場をメインとしながらも、海外の利用者にも訴求することができるのが国境も言語の壁もない、人と人とのつながりやクチコミが広まるソーシャルメディアだ。

FacebookやTwitterを使った新しいコミュニケーションをやるのはもう当然で、以前、紹介したように米ウィンターリゾートのトップ5に入るVailがやっているEpicMixのような新しい取り組みも始まっている。

参考:EpicMixをご存知ですか?

広告予算の規模で露出量が決定する既成メディアとは違い、「いいね!」「シェア」「リプライ」「リツィート」によって露出と共有量が大きく変動するソーシャルメディアを集客施策、マーケティング戦略の中心に据えようとしても驚きはしない。

これは何も大規模スキー場に限った話ではない、ローカル・地元利用者が大半を占める中小規模スキー場にとっても同じことだ。いままで何十年も実施してきた伝統的なマーケティング、プロモーションだけでは、大規模スキー場のソーシャルメディア戦略に根こそぎ利用者を持っていかれてしまう。ローカルな話題やコミュニケーションで地元利用者をつなぎとめるためにもソーシャル化を加速しなければならない。

かくして、米国のスキー産業はソーシャルメディア戦略を加速させてゆく。

そして、これは日本国内にも当てはまることがいくらかはあるのではないだろうか?
また、この話はスキー場だけではなく、他の集客施設、例えば博物館にも...。

2012年5月24日木曜日

ユーザ参加を促進するパターン:その2

シドニー水族館が、動物を養子にして絶滅危惧種を保護しようというキャンペーンをやっている。

下は、それに関して、「5月23日の世界亀の日を記念して養子にしませんか」というツィートだ。
リンクをクリックすると、SACFのページが開く。
SACF(Sydney Aquarium Conservation Fund)に50㌦寄付すると、 絶滅危惧種やその生態系を保護するために使われることになる。その養子パックには、1年間有効なメンバーシップ、動物ファクトシート、感謝レター、水族館入場券2枚、写真、ステッカーが入っている。

養子にできるのは、亀だけではなく、ジュゴン、カモノハシ、ペンギンなどがいるので、希望する動物を選んで養子にすることができる。

出典:シドニー水族館 SACF

水族館内の看板、ポスター、外部へのニュースレター、新聞・雑誌広告、その他利用可能なメディアを使って、SACFへの寄付を呼び掛けているはずだ。その中でもTwitterおよびFacebookを使った告知、連絡はユーザの友人つながりからのクチコミが一番期待できるメディアだ。

告知されたイベント、プロジェクトが、
  1. ユーザが関心や興味を持ち、意義・価値が認められ、
  2. 他のユーザとそれを一緒に遂行する手助けができるという連帯感と満足感を充足し、
  3. 幅広い一般ユーザが参加できるほど間口が広く、敷居の低い
ものであるとき、動物や自然環境保護に関心のあるユーザの参加を促すことができる。その初期告知、告知拡散、そして連帯感の増幅と地域流行から国内流行へ移行できるのがソーシャルメディアの最大メリットだろう。

参考:ユーザ参加を促進するパターン:その1

2012年5月23日水曜日

一般ユーザの貢献に感謝するか、しないか?

昨日、「ウォールへの投稿許可が広げるコミュニケーション」として記事を書いた。

参考:ウォールへの投稿許可が広げるコミュニケーション

記事をアップする前に、クラークプラネタリウムのツィートをRTしておいたが、それに対してツィートがあった。 一般ユーザのとるに足りない貢献に対して、プラネタリウム側が必ず感謝ツィートをするかしないか、という問題ではなく、@ClarkPlanetが@つながりをチェックしているか、していないかという問題だ。施設がフォロワー、RT、お気に入り、ユーザ名を含むツィートをチェックしているか、していないかという問題だ。

Twitterを広報チャネルとして活用するだけなら、手間暇、人的リソースが必要となるチェック作業をする必要はない。伝えるべきことを伝えるだけで良い。

しかし、ソーシャルメディアチャネルの大前提である双方向、対等のコミュニケーションを目指すのであれば、自身の発信した情報・コンテンツに対するレスポンスをチェックし、会話を紡ぐ必要がある。手間暇、人的リソースをかけてゆく必要がある。

それなしにソーシャルメディアチャネルを使うメリットはないとさえ言える。

新聞、雑誌、ラジオ、テレビに広告を出稿する際は広告費を支払う。ソーシャルメディアチャネルを使うには、手間暇、人的リソースといったコミュニケーション・コストが発生する。それを理解しない限り、ソーシャルメディアを使う意味はないし、効果も期待できない。

ソーシャルメディアはタダではないのです。ユーザのレスポンスに感謝もせずに効果や結果だけを求めるものではないのです。ユーザに育ててもらわなければ、施設自体のリソースを如何に活用した処でその効果は高が知れているのです。ユーザと共同してコミュニケーションやブランドプレゼンスを積み重ねてゆくしかないのです。

マインドセットを切換える必要があるのです。

2012年5月22日火曜日

ウォールへの投稿許可が広げるコミュニケーション

昨日の金環日食は日本中を興奮のルツボに叩き込んだ、とまでは言えないけれど、多くの人々がグラスをかけて観察したようだ。

先週から様々な施設、天文台、一般企業、プラネタリウムなどが特別サイトを立ち上げたり、公式サイトで金環日食を取上げていた。

さて、この金環日食はなにも日本だけの話ではないので、いろいろな国でも取上げられていた。そんな中で米国のユタ州のソルトレイクにあるクラークプラネタリウムは、 昨日、次のツィートを行っていた。
もうひとつある。
「Facebookページにみんなの撮った金環日食の写真を投稿して、シェアしてね」、「金環日食の写真を撮ったらFacebookページでシェアしてね」と呼びかけていた。

アメリカの金環日食は夕方だったので、まだレスポンスは少ないようだが、シェアされた写真がすでに上っていた。
ただ単に、天文台やプラネタリウムといった専門施設が、機材を活かして撮影した写真をTwitterやFacebookにアップして鑑賞してもらうだけではなく、一般ユーザが様々なロケーション、機材、タイミングで撮影した写真をシェアしてもらう取り組みは、昨日書いた「ブルックリン美術館のクラウドソーシング」にもつながってくるアプローチだ。

参考:ブルックリン美術館のクラウドソーシング(速報)

そして、それを可能ならしめるのは、ページ・ウォールに対してファン、および一般ユーザの投稿、写真・動画のアップロードを許可していることだ。

一般ユーザにとって自分のTwitterやFacebookに日食写真をアップするより、クラークプラネタリウムのFacebookページでシェアしたほうが、より多くのユーザの目に触れる機会が多く、より多くの感想をもらうことができ、コミュニケーションが広がる。新しいユーザと友人になったり、長いこと会っていなかった昔からの友達ともう一度つながることができる。

クラークプラネタリウムにしても新しいコンテンツの共有を受けて、写真をシェアしてくれた新しいユーザ、ファン、フォロワーを獲得して、コミュニケーションを広げることができる。

それもこれもウォールへの投稿ができるからこそだ。

Facebookページを広報チャネルのひとつとして、ウォールへの投稿を許可していない企業も存在する。しかし、許可しないメリットよりも、許可した上で、コンテンツの共有やコメントのやり取り、いいね!やシェアを行ってユーザとコミュニケーションを行うメリットの方が大きい。

という、基本的な考え方をクラークプラネタリウムは持っている。当然、他の集客施設や一般事業会社でも共有されている考え方だ。

Facebookページをお持ちの施設、これからページを開設しようとされる施設には、この基本を押さえておいてほしい。間違っても、国内最大、世界的な自動車メーカーのアプローチは参考にされないように。

2012年5月21日月曜日

ブルックリン美術館のクラウドソーシング(速報)

美術館にクラウドソーシングとはまるで似つかわしくない言葉と感じられるかもしれない。

しかし、ブルックリン美術館はそんな感じは持っていなかったようだ。今まで参加していたFacebook、Twitter、YouTube、Blog、Flickr、FourSquare、その他のソーシャルメディアスペースでのコミュニケーションを前提として、アーティストやオーディエンス(鑑賞者、審査・評価者)の参加を募り、ブルックリンにあるアーティストのスタジオを一般に公開してもらい、スタジオを訪れて作品を鑑賞、審査したオーディエンスに投票してもらう。その中からブルックリン美術館のキュレーターが審査し、上位2作品以上を12月に予定されているグループ展に出品しようという「GO」プロジェクトを開始している。


アーティストにとって、常設展、公募展や企画展など数多くの出品機会があるが、一般的に主催団体・主催者側の審査を経た上で出品できるようになる。

しかし、今回は違う。展覧会に行ったこともない、もう何年も行ったことがない、現代アートなんて分からない、現代アートなんてみたことがないといった一般の人たちも参加するかもしれないオーディエンス、投票者に選ばれればブルックリン美術館のグループ展に参加できるようになるかもしれない機会だ。

それこそ、知り合い、友達、家族、親戚を総動員して投票者になってもらい、自分の作品に投票してもらおうとするアーティストもいるかもしれない。ブルックリン美術館には足が遠のいていた愛好家たちが久しぶりの機会だからと、何軒かのスタジオを回り、投票した上で、12月のグループ展に行ってみようというきっかけになるかもしれない。おろしろそうだからと、自宅を開放してスタジオとして自分の作品を見てもらおうとするアマチュア画家が参加するかもしれない。

彼らが、ブルックリン美術館のコミュニケーションチャネルであるFacebook、Twitterなどのソーシャルスペースと交流しながら、自分たちのネットワークも交えて、今回の「GO」プロジェクトの露出を高め、認知を深め、情報・コンテンツを共有してくれるようになる。と、ブルックリン美術館は考えた、少なくとも、そうなるだろうと期待して今回のプロジェクトを開始したのではないだろうか。

アート界初のクラウドソーシングということで、ニューヨークタイムズのWebにも記事が載っている。

まだ、先週の18日に告知されたばかりなので、効果や結果が出てくるのはこれからだが、期待していいプロジェクトだ。

そして、こういった取り組みが日本でも早く行われればと期待が高まるばかりだ。

2012年5月18日金曜日

博物館コンテンツのデジタル化+オープン化

イギリスの科学博物館、Science Museumへ行くと、テレビ司会者、自動車評論家、ジャーナリストと肩書がいくつもつく、James Mayが迎えてくれる。
その左下に、「Try our new augmented reality app」とある。

これは何かと言うと、科学博物館が誇る世界的な9つの展示を、AR(拡張現実)を使ってアバターとなるJames Mayが、フォードのモデルT、ロールスロイスのエンジン、その他を紹介した後、テストを行ってどれくらい学習したかをチェックしてくれるアプリだ。
このアプリを、Appストア(2.99㌦)やGoogleプレイ(260円)で買って、楽しんでねという話だ。

ARと言えば最近、大阪歴史博物館でも「AR難波宮」アプリの提供を開始したとアナウンスがあったばかりだ。

出典:大阪歴史博物館 「AR難波宮」アプリ

海外でも国内でも、一時期の熱狂的なARブームは去ったようだが、施設側のオーディエンスサービスに関するマインドが変わり、より使い勝手の良いARアプリが登場すれば、作品鑑賞の友としても、オーディエンスに対する普及教育としても、リピーター増加エンジンとしても必須デバイス・アプリになるかもしれない。

一方、AR以外にもルーブル美術館と任天堂が提携し、ニンテンドー3DSをルーブルのオーディオガイドとして活用、提供するといったリリースもあった。また、フランスの国立美術館連合が始めたAraGoというサイトがある。オルセーやルーブルなど32のフランス国立美術館・博物館が所蔵する写真、作家300人の作品3万枚を無料で公開している。

出典:任天堂 プレスリリース
出典:AraGo

今後、作品説明やツアーガイド、高解像度画像だけではなく、AraGo、グーグルアートプロジェクトやストリートビューが目指している博物館コンテンツのデジタル化とオープン化が、博物館再生の最重要なカギになるかもしれない。

2012年5月17日木曜日

ユーザ参加を促進するパターン:その1

12,730人のTwitterフォロワーと、42,194人のFacebookファンを持つ米National Aquariumが、Twitterで「愛する人のために自分が行ったロマンチックなことをツィートしてペア入館券を当てよう」というコンテストをやっていた。
バルチモアとワシントンに水族館を持つ非営利団体が行ったコンテストは、5月16日の午前9時から午後3時30分までという短時間に、@NatlAquariumをフォローして#ROEmanceを入れたツィートをしろというものだ。

実質的に14人が、15件のツィートを発信し、数人がコンテストについてツィートしていた。

チケットが当たったのは、以下をツィートしたStephanieだった。 当日告知、当日締切、当日発表という非常にタイトなスケジュールで行われた今回の場合、「チケットをプレゼントしますからフォローしてください、ツィートしてください」とリクエストしてもTwitterフォロワーの0.1%程度の反応しか得られなかった、あるいは0.1%程度も反応が得られたということになる。

これがすべてではなく、始まりなので余裕のあるスケジュールでの再トライ、告知方法の見直しなどブラッシュアップしてゆけばいい。

とに角、「ご案内」、「ご連絡」といったツィートをするだけではなく、ユーザの参加を募る、ユーザの自発行動を促すアプローチが必要になっているということだ。そこから、上のように数人がリツィートしたり、コンテストを紹介するツィートであったりと、広がってゆく。そういった次のステップにNational Aquariumは入っているということだ。

最後に、当選したStephanieに「詳細を知らせるからDMしてね」とツィートしたNational Aquariumに対して、「フォローしてくれないとDMできないわ」と返されたところを見ると、Twitterの仕組みをまだまだ理解していないNational Aquariumの背中をどやしつけたくなる。

「しっかりせいや」と。

2012年5月16日水曜日

Pinterestを導入しているダラス美術館

昨日、ダラス美術館のアニュアルレポートについて書いた処だが、

参考:マサダ ダラス美術館のアニュアルレポートはどこにある?

下のように ダラス美術館のトップページ、センターにコミュニティというセクションがあり、参加している、活用している各ソーシャルスペースのアイコンが所狭しと並べられている。(クリックでサイトへ)


Facebook、Twitter、Flickr、YouTubeはもちろん、ブログ、RSSフィード、LinkedInもあるし、果てはトリップアドバイザー へのリンクまである。

そんな中でも目を惹いたのは、Pinterestだ。画像や動画の共有サービスとして急速に勢力を拡大しているPinterestをすでにサポートしているということだ。


美術館と言えば所蔵品の複製に対して神経質になるところだが、ダラス美術館はその逆路線を走っているかのようだ。Pinterestユーザの画像共有に参加し、フォロー・フォロワー関係を構築し、ユーザ・オーディエンススペースで所蔵品に「ピン」をつけてもらうことで、自施設のプレゼンスを拡大しようとしている。

昨日書いたScribdにアニュアルレポートのPDFをアップさせ、露出・共有を促進させていることと加えて、もう、逆転の発想というよりも、逆転すべきレガシー的な発想が頭からないのかもしれない。ダラス美術館のマーケティング担当者は、それこそミレニアル世代であり、ネットとPC、携帯・スマホ、SNSが大前提にくるマーケティングマインドを持っているようだ。その担当者が利用者・オーディエンスであるミレニアル世代と全く同じ土俵に立って会話をしているかのようだ。これは、そこらにある一般事業会社のマーケティングマインドをはるかに飛び越えたレベルに達している。

このギャップは途方もなく広く、深く、埋めようもないものに映ってしまうが、一方、日本だってミレニアル世代がいる、彼らに期待しようと思う部分がせめぎ合っている。

2012年5月15日火曜日

ダラス美術館のアニュアルレポートはどこにある?

以前、SFMOMAのアニュアルレポートがiPadアプリで配布されていることを書いた。

参考:マサダ マーケティング施策の実績を明示するSFMOMA

今度は、ダラス美術館がアニュアルレポートが完成したことをツィートしていた。
SFMOMAのようにiPadレディーではないけれど、何が特別かと言うと、ダラスの場合、ホスティングターゲットにScribdを使っていることだ。
(下画面にある「ダウンロード」「今すぐプレイ」は広告なのでクリックしないこと)
出典:Scribd Dallas Museum of Art

Scribdは約5000万人@月のユニーク訪問者数を抱える、いわゆる文書共有サイトとして様々な利用がされている。個人、企業、団体がプライベート、パブリックの文書をアップして様々な共有を行っている。そんなScribdに美術館のアニュアルレポートがアップされている。

Webサイトではどうなっているのか見にいくと、驚いた。美術館のWebサイトにPDFを置くのではなく、Scribdにおいたファイルを表示させていた。
出典:ダラス美術館

ダラス美術館は、初めてエレクトロニクス化したアニュアルレポートを、自施設Webにおくのではなく、Scribdに上げ、そこからFacebook、Twitter、LinkedIn、Google+などでの共有、ファイルのエンベッド、コピー、コレクションと言った機能を使わせることをメインに考えている。

自施設Webサイトへのトラフィック、ソーシャルプラグイン、ダラス美術館のソーシャルメディアプレゼンスなどを考慮しても、Scribdにアニュアルレポートをおいた方がダウンロード・共有率が高いと読んだ末の結論ということになる。

MOMAならいざ知らずダラス美術館のWebトラフィックでは...、といった否定的な判断ではなく、ソーシャルスペースのScribdとそのユーザが持つパワーを理解すればこその英断だ。

翻って国内にある9分類の博物館が利用者にも分かりやすいアニュアルレポートを作成し、それをユーザが活動するスペースに置いて、露出拡散・共有を図っているかとなると、まだまだのようだ。今こそ、物理面での入館者というクローズドな定義ではなく、自施設の利用者・ネットオーディエンスというバーチャル、オープンな定義を使うべきだと思うがいかがだろうか?その定義を使った施策が求められる時代になってきたと思うがいかがだろうか?

2012年5月14日月曜日

新しい美術・博物館は必要ですか?

The Art Newspaperというメディアがあって、2006年から世界各地の美術・博物館の来館者数を出している。直近2年間の数字を見ると、世界的な観光地、ルーブルがダントツだ。

2010年のトップ10
  1. Louvre, Paris                               8,500,000
  2. British Museum, London              5,842,138
  3. Metropolitan, New York                5,216,988
  4. Tate Modern, London                   5,061,172
  5. National Gallery, London             4,954,914
  6. National Gallery, Washington       4,775,114
  7. MOMA, New York                        3,131,238
  8. Centre Pompidou, Paris               3,130,000
  9. National Museum of Korea, Seol   3,067,909
  10. Musee d'Orsay, Paris                   2,985,510
出典:The Art Newspaper Exhibition & Museum attendance figure 2010 (pdf)  

2011年のトップ10
  1. Louvre, Paris                                8,888,000
  2. Metropolitan, New York                 6,004,254
  3. British Museum, London               5,848,534
  4. National Gallery, London               5,253,216
  5. Tate Modern, London                    4,802,287
  6. National Gallery, Washington        4,392,252
  7. National Palace Museum, Taipei     3,849,577
  8. Center Pompidou, Paris                 3,613,076
  9. National Museum of Korea, Seoul   3,239,549
  10. Musee d'Orsay, Paris                     3,154,000 
出典:The Art Newspaper Exhibition & Museum attendance figure 2011 (pdf)  

基本的にトップ10の顔触れは変わらず、来場者数が増えている。しかし、TateとNational Gallery(Wash)はそれぞれ20万、40万人減ってはいるがトップ10に踏みとどまり、MOMAが30万人以上減って圏外へ、入れ替わりで台湾の故宮博物館がトップ10入りを果たしたといったところだ。

ちなみに、日本の博物館はというと、
  1. 東京国立博物館:   2010年 1,271,174人(31位)、2011年 1,629,333人(22位)
  2. 国立新美術館   :   2010年 2,027,980人(17位)、2011年   680,242人(80位)
  3. 国立西洋美術館:   2010年   544,731人(91位)、2011年  不明
  4. 京都国立近代美術館:2010年  532,427人(93位)、2011年  不明
  5. 東京国立近代美術館:2010年   482,757人(100位)、2011年  不明
となっている。2011年の西洋美術館、京都・東京の近代美術館はトップ100に顔を出していないため順位は不明だが、100位が55.6万人なのでそれ以下となる。

「マーケティング施策の実績を明示するSFMOMA」で出した国立美術館の入館者数と若干相違しているので、どこまでこのデータが信頼できるかはさておき、 国立と名を冠した博物館、美術館でも年間50万人を切っているところがある。

参考:マサダ マーケティング施策の実績を明示するSFMOMA

日本を代表する「国立??」といった首都圏・大都市の博物館でもこうなので、それ以外の各県にある美術・博物館の来館者数は推して知るべきだろう。博物館はとにもかくにも来館者を増やす策が求められている。新聞・テレビ会社を共催、後援につけられるところはまだましで、意外性のある独自の企画展、県内外の美術・博物館とのコラボや、それこそ一般事業会社のスポンサーシップを求めるといったケースがあるかもしれないほどプロモーション策が練られている。

それでも、ある美術館の館長さんは「どこも状況は厳しいけれど、前向きプラス思考で行きましょう!!」とつぶやくほど来館者状況は厳しいようだ。

「博物館に未来はあるのか?」で書いたように、日本では過去12年間に博物館数が28%も増えて、入館者数は613万人(2.1%)も減っている。

参考:マサダ 博物館に未来はあるのか?

それにも関らず、いくつかの県では新しい美術館、博物館が建設されようとしている。新しい美術・博物館は本当に必要でしょうか?箱モノを作るだけが目標でしょうか、それとも箱モノに入れるモノまでを考えた上での目標をお持ちでしょうか?

そして、もし作るとするならば、十分なヒアリング、各種調査や現状認識からテート美術館のようなマーケティング戦略を構築し、SFMOMAとはまでは行かずとも、IT・システム部門、マーケティング部門、出版・Web部門を置き、何人かを配置した上で運営してゆく必要がある。それなしに作る新しい美術・博物館は最初からつまづく可能性が高いのではないだろうか。

是非、みなさんの意見をお聞きしたいと思っていますので、コメント、ツィートなんでも結構ですのでご意見をお寄せ下さい。宜しくお願いします。

2012年5月11日金曜日

マーケティング施策の実績を明示するSFMOMA

サンフランシスコの現代美術館、SFMOMAがiPadアプリを提供してアニュアルレポートを配布している。これは美術・博物館として世界初の試みだそうだ。


出典:SFMOMA ニュースリリース
出典:ArtDaily.org ニュース

iPadであれば各種マルチメディア機能を駆使してSFMOMAの2011年版アニュアルレポートを堪能できるわけだ。ただ、iPadがないユーザにも普通のPDFファイルを提供してくれている。

そのPDFの巻頭を飾る3ページ目に「BY THE NUMBERS」というセクションがある。


出典:SFMOMA 2011年アニュアルレポート

曰く、
  • 入館者数 636,057人
  • Webビジット数 2,855,000
  • Facebookファン 56,046人
  • Twitterフォロワー 238,265人
  • ブログ記事 325本
  • email購読者 15,994人
  • YouTubeビデオ再生回数 120,273回
  • ポッドキャストダウンロード数 2,939回
  • モバイルツアー参加者 50,471人
これ以外にも様々な指標ごとに実績が挙げられている。当然、アニュアルレポートなので財務ハイライトもあり、展覧会・企画展やイベント、ワークショップごとの詳細も記載されている。

アニュアルレポートは2011年6月締めなので、以前、紹介したMuseum Analytics(beta)による最新データでは、SFMOMAは米国内の博物館入場者数ランキングでは70万人で14位、Twitterフォロワーは 33万人超で8位、Facebookファンは7.2万人強で19位となっている。ま、中堅の博物館としての位置づけになるのだろう。

参考:マサダ 日本の美術・博物館の50%は新しいことに挑戦していない?

その中堅博物館が、取り入れている施策、指標に注目せざるを得ない。SFMOMAは、Webは当然、そしてFacebook、Twitter、ブログ、YouTube、ポッドキャスト、emailニュースレターなどを活用したマーケティングを行っている。そして、その取り組みの実績をきちんと明示している。

さて、日本の独立行政法人国立美術館には、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館の5館があり、それをまとめた年度ごとの実績報告書が上っている。直近3年での各館ごとの所蔵作品展、企画展ごとに入館者数を見ると表のようになっている。


出典: 独立行政法人国立美術館 実績報告・評価等

これを見ると、おおざっぱに言って、SFMOMAは東京国立近代美術館(本館+工芸館)と同じくらいの入館者数を持っていることになる。

そして、その中堅博物館のSFMOMAは、Facebook、Twitter、ブログ、YouTube、ポッドキャストなどの様々な施策を立案、企画、実施し、入館者・アクセス・ダウンロード・コメント・いいね!・シェア・リプライ・RT・お気に入り・その他を増やそうと努力している。ユーザが活動するスペースに参加して、情報・コンテンツを発信し、共有・拡散してもらうための努力を行っている。その最新施策がiPadだ。iPadアプリを開発して無料提供し、アニュアルレポートをより多くの人、博物館利用者、寄付を行ったり活動をサポートしてくれる人達に分かりやすく提供しようとしている。

一方、日本の(独法)国立美術館は...?

上の実績報告・評価には、SFMOMAのように各種施策ごとの実績はない。すなわち、そういった施策を実行していないということになる(見落としただけかもしれないので、ご存知の方はご一報ください)。

実のところそういった施策は必要ないのかもしれない。常設展はいざ知らず、企画展になると様々な共催社の名前がある。新聞社、TV会社、海外美術館、文化庁、その他の支援、後援、協力があり、彼らの強力なメディア露出でプロモーションが行われている。だから、SFMOMAのような手間暇、時間、コスト、人的リソースがかかる施策をやる必要はないのかもしれない。

だって、本部(ポータル)および5館のWebアクセスを見ても京都を除けばSFMOMAの285万ビジットより多い。数倍あるところもある。多くの人がWebへアクセスしてくれる事実があるのだからと。


しかし、国立と名のつかない中堅の美術・博物館は、SFMOMAと同様、いやそれ以上にユーザが活動するスペースに参加して、情報・コンテンツを発信し、共有・拡散してもらうための努力を払う必要があるだろう。

SFMOMAのアニュアルレポートには、IT・システム部門が6名、マーケティング部門が9名、出版・Web部門が10名、それぞれ個人名が記載されている。全体で約200人のスタッフ、アシスタント(アルバイト?)のうちの25名、全体の12.5%、八分の一のスタッフが、学芸員を中心とする美術館のコア(?)業務以外に配置されている。

ここまでのリソースを配置することは日本の中堅美術・博物館には無理かもしれない。しかし、「中の人」だけの思考では、「外の人」の行動パターンも分からず、それに則したアプローチもできない。実のところ、外向け業務こそコア業務だとすれば、おのずと、やるべきことは見えてくる(はず)。

しかし、それにしても国立美術館のうちTwitterを使っているにもかかわらず、1人もフォローせず、リプライもRTもなく、お気に入りやリストを使ったこともないアカウントを見ると、「中の人」だけの思考だなと思ってしまう。

累計4,460件のツィート中6.15%=274件のリプライ、27.27%=1,216件のRTをやっているSFMOMAと比べて、日本の国立美術館のツィートは、残念ながら誰の耳にも届かない「ひとり言」になっているとしか思えない。

SFMOMAは、リプライやRTするために耳をそば立てている。ユーザの声を聞こうとしている。聞いた声に対してレスポンスを返している。それがコミュニケーションだということを理解している。そのコミュニケーションがなければ、自身の言葉やメッセージ、コンテンツが伝わらない、共有してもらえないことを理解している。
出典:TweetStatas.com / SFMOMA

考えてもみてください。あなたが自宅にいる時、メガフォンで「粗大ごみの無料回収車です。パソコン、洗濯機、テレビなど処分にお困りのものがあれば無料で回収します」とがなりたてる音、声、メッセージに耳を貸しますか?

うるさいと怒鳴っても仕方がないので、回収車が通り過ぎるのを待つだけではありませんか?メガフォンマーケティングから会話、コミュニケーションの糸口は開かないのではありませんか?

もうひとつ考えてみてください。もし、あなたの施設が1995年に初めて開設されたスミソニアン博物館のWebサイトと同じ機能しかないとしたら、現在のユーザニーズにどれだけ対応できると思いますか?Webサイトへのトラフィックを計測するだけでユーザスペースに参加していると思いますか?

それとも、あなたの施設のWebは17年前のスミソニアン博物館のWebサイトが提供する機能・サービス・コンテンツ以上のものを提供していますか?


出典:Smithsonian Institution Archives

最後に、上の画像の利用許可を昨日の午後3時、スミソニアン博物館にTwitterで行ったところ7時間後の午後10時、時差を考えれば即リプライが来た。


こういった対応が今のネット時代には必要と思われますか、それとも不要だと思われますか? 米国なら至極当然と考えられるユーザ対応は、「日本」という冠を抱く国立美術館には不要でしょうか?あるいはその他大勢の中堅博物館には不要でしょうか?

2012年5月10日木曜日

広告を掲載するほど機能している名古屋市科学館Webサイト

名古屋市科学館のトップページ下に広告セクションがある。(下をクリックでオリジナルサイトへ)
この広告募集ページに、月平均アクセス件数としてトップページで約40万件という数字が出ている。これがどれほどのものかを確認してみるため、グーグルトレンドで、名古屋市科学館、東京の科学技術館、大阪市立科学館を比べてみた。

すると過去12カ月で継続してユニークビジターが出ているのは名古屋のみ。東京も大阪も継続したアクセスが記録されていないし、どうやら名古屋の半分にも達していそうにない。
出典:名古屋市科学館 広告募集
出典:グーグルトレンド

通常展示に加え、プラネタリウムもあるので名古屋科学館のアクセスが多い、とは言い切れない。大阪にもプラネタリウムはあるし、東京だってプラネタリウムはないけれど各種展示が充実している。

なぜ名古屋市科学館へのアクセスが多いのかは本題ではないので、お分かりの方、ご教授願います。


本題は、とに角、東京や大阪の類似施設よりもアクセスの多いWebサイトを持つ登録博物館である名古屋市科学館が、Webサイトのトップページ下に16枠の一般企業・大学などの広告を掲載していることだ。

ま、名古屋と言えばの人もいるけれど、広告掲載要項を見る限りその人が市長になる前の平成19年から始まっている。全16枠で年間230万円の売上となるわけだが、こういった手法が実施されていることに拍手を送りたい。

他にも美術・博物館、水族館、動物園など、同様手法を取り入れているところはあると思うが、まだ拝見したことはない。

さて、各種博物館は当然、Webサイトを構築し、情報提供を行っている。自施設について、展覧会、企画展、公募展、「??美術館展」、学芸員トークやワークショップイベント、バックヤードツアー、メールマガジン発行、ご意見・ご感想の受付、お問合わせや調達情報、メディア対応等、そのコンテンツは千差万別だが、充実していることは言うまでもない。

そして、これらコンテンツの価値は途方もなく高い。

ただし、「もし、Webに相応数のユーザがアクセスしてコンテンツを消費、共有してくれているとしたら」、という条件がつくのも言うまでもない。

価値の高いコンテンツが存在することに意味はあるが、消費・共有されたコンテンツの価値はその数倍、数十倍、数百倍にも達する。消費・共有するためにユーザがアクセスするWebサイトに意味はあるが、アクセスされないWebサイトの意味は軽く薄い。価値の高いコンテンツが可視化されていなければ、あるいは消費・共有されていなければその意味も価値もないに等しいと言うと言い過ぎだろうか?

名古屋市科学館Webサイトへのトラフィックは多く、Webサイトの価値のあるコンテンツ・情報に多くのユーザがアクセスしてコンテンツが消費・共有されている。月40万ページビューを稼ぐゲートウェイ、コミュニケーションチャネルとして機能している。それだからこそ、科学館が持っている価値のあるコンテンツに上乗せする年間230万円という価値を生み出している。

この価値を東京国立近代美術館、国立新美術館、国立西洋美術館と比べてみる。さすがに国立という冠を載せたWebサイトのトラフィックは多い。が、桁違いの差ではなく、名古屋市科学館Webサイトは常時2番目を死守しているように見受けられる。名古屋市科学館Webサイトはそれだけの価値を生み出している。
出典:グーグルトレンド

さて、以下の質問に答えられますか?
  • あなたの施設は名古屋市科学館Webサイトのように機能していますか?
  • 価値のあるコンテンツを掲載するトラフィックのないWebサイトがあるだけですか?
  • どれくらいのWebビジター数ですか?
  • 消費・共有してもらうためにマーケティング施策を実行していますか?
  • ブログ、Facebook、Twitterをやってますか?
  • 入館者数は何人ですか?
  • メールマガジンの購読者は何人ですか?
  • YouTubeビデオの再生回数は?
  • ポッドキャストのダウンロード回数は?
  • モバイルツアーに参加したのは何人ですか?

Webサイトだけではなく、全般的な博物館マーケティングに関する質問にちゃんとした回答を出している所がある。

そのサンフランシスコにある現代美術館、SFMOMAの話は明日。

2012年5月9日水曜日

グルーポンを利用した贈答チケット

ついこの前まで飛ぶ鳥を落とす勢いだったグルーポンを利用して、スキーリゾートなどもチケットを販売している。

下はその一例だ。これはすでに2011年1月13日に終了している。


上の画面に、「Buy it for friend」というボタンがある。

このボタンは2年ほど前から装備されていたので、今では、結構多くのクーポン販売で使われている機能だ。これをクリックすると、以下のウィンドウが表示される。


宛先、差出人、配達方法(メール、印刷)、メッセージを入力すればOKだ。これで友人だけではなく、親や親せき、知人、同僚へもギフトとして割引クーポンを送ることができる。

ロンドンのグルーポンが提供しているQ&Aによれば、「定価表示だけで、購入金額は表示しない」そうなので、 ちゃんとしたギフトとして送れそうだ。

出典:グルーポン ロンドン

ギフトと言えば、なにもスキーリフトや母の日の花束に限った話ではない。それこそ、美術・博物館、水族館、動物園、テーマパーク、展望施設の入場券に展開できる話だ。

ところが、通常価格から大幅な値引きをし、かつ50%とも言われるグルーポンのコミッションを考えると、おいそれと入場券販売を開始するわけにはいかないし、贈答用として提供するわけにもいかない。

ただし、例えば限定千枚のギフトチケットを広告・宣伝費として計上できれば、スキー場であれ、美術・博物館であれ、面白いマーケティングができるはずだ。

美術・博物館や後援団体が使うメディアに加え、(潜在)入場者が活動するソーシャルメディアスペースに大きな花火と、一人ひとりが手に持つ線香花火の輪をつなげてゆくことができる。もし、これまでのマーケティングマインドを転換することさえできれば...。

2012年5月1日火曜日

博物館に未来はあるのか?

文部科学省の社会教育調査-平成20年度結果の概要という資料が公開されている。

出典:文部科学省の社会教育調査-平成20年度結果の概要

その資料を取上げる前に、まず、博物館は、総合、科学、歴史、美術、野外博物館、動物園、植物園、動植物園、水族館と9つに分類されており、加えて博物館法により、登録博物館、博物館相当施設、博物館類似施設の3つに分かれている。

登録博物館は、地方公共団体、一般財団法人、一般社団法人、宗教法人、日本赤十字社または日本放送協会が設置した施設。博物館相当施設は、文部科学大臣あるいは都道府県教育委員会の指定を受けた施設。それ以外で博物館と同じ事業を行う施設が、博物館類似施設ということになる。

ま、一般企業や団体が開設・運営している博物館類似施設が多いことは言うまでもない。

さて、3年おきに行われている調査で、平成8年から20年までの博物館の館数の推移を見ると、平成8年度に4,507館だった数は、20年度には1,268館も増えて5,775になっている。28%も増えている。


これを登録博物館(+相当施設)と、類似施設に分けてみるともっと分かりやすい。登録博物館(+相当施設)が263館増えているのに対して、 博物館類似施設は1,005館も増えている。

なぜそんな増えているかと言うと、平成11年度に博物館類似施設が542館、特に歴史博物館が289館、美術博物館が114館も増えているからだ。8年度比で15%以上も増えるという特異年になっている。その原因を掘り下げるつもりはないので、ご存知の方がいらっしゃれば是非、教えてください。


次に入館者数を見てみる。平成7年度間に2億8600万人だったが、19年度間には2億7987万人となっている。平成13年度間の2億6450万人を底に、16年度間(前回比3.1%増)、19年度間(同2.6%増)と盛り返してきてはいるが、7年度間と比べて613万人、2.1%も少なくなっている。
(グラフの縦軸は単位千人)


博物館数自体が平成8年度から1,268館(28%増)も増えているわけだから、入館者数が盛り返してきているのではなく、もっと増えていなければいけないはずだ。しかし、実際の処は2.1%も減っている。

それを登録博物館(+相当施設)と、類似施設に分けてみると、
  • 平成7年度間  登録博物館 1億2407万人。類似施設 1億6193万人
  • 平成19年度間 登録博物館 1億2416万人。類似施設 1億5571万人
登録博物館は9万人増えて、類似施設は622万人も減っている。

登録博物館は10年度間が底で、それから盛り返してきている。一方、類似施設は13年度間が底だが、16年度間、19年度間と目に見えるほどの盛り返しではない。いずれにしても館数増に見合うだけの入館者増ではなく、類似施設の入館者数は減っている。
(グラフの縦軸は単位千人)


そこで、平成8年度および平成20年度の館数と、平成7年度間および平成19年度間の入館者数から1館あたりの平均入館者数を見ると、傾向がはっきりする。どの博物館も平均入館者数が減っている。特に、動植物園は18万4000人も減っている。動物園も8万4000人、野外博物館が3万7000人も1館あたりの平均入館者数が減っている。
(グラフの縦軸は単位千人) 


博物館数が増え、1館あたりの平均入館者数が減っているのだから、過当競争状態に入っていると言っても間違ってはいないだろう。多分、新設の博物館類似施設に人気が集中し、既存施設は入館者減に苦しんでいる。その減少幅が平均入館者数に反映しているというのが現状だろう。

旭山動物園の昨年度の入園者数は4年連続で減少し、7年ぶりに200万人を割り込み約172万人だった。旭山動物園が始めた行動展示で動物園の人気が盛り上がっていたが、すでに下火になっているようだ。その点、Ustを使った中継やTwitterで注目を集めるアカウントのある水族館が踏ん張っているようだ。

出典:旭川市 旭山動物園の月別入園者数


ここでもう少し、詳細を見てみる。

平成8年度から20年度にかけて、
  • 博物館(+相当施設)の中で最も増えたのは、美術博物館で124館増加、2番目は歴史博物館で104館増加。
  • 博物館類似施設の中で最も増えたのは、歴史博物館で619館増加、2番目は美術博物館で132館増加。
  • 博物館全体でみると、 歴史博物館は723館増加、2番目は美術博物館で256館増加。
平成7年度から19年度にかけて、
  • 歴史博物館(+相当施設)の入館者数は57万人増加、美術博物館(同)は736万人増加。
  • 歴史博物館類似施設の入館者数は375万人増加、美術博物館(同)は355万人減少
となっている。

歴史博物館数はベラボウに増えたが、入館者増が多かったのは類似施設だ。美術博物館数もベラボウに増えたが、 登録+相当施設が順調に入館者数を伸ばした一方、類似施設は減少している。

そこで、 歴史博物館と美術博物館を、博物館(+相当施設)と類似施設ごとにその1館あたりの平均入館者数を見ると、一目瞭然。館数が増えたのはいいが、1館あたりの平均入館者数は減っている。
(グラフの縦軸は単位千人)


今後、少子高齢化、出生率低下、総人口減少のトリプルパンチがやってくる。それにも関らず、もし、今後も博物館、中でも歴史・美術博物館の新設が止まらないとすると、平均入館者数の右肩下がりの傾向は続き、既存施設の淘汰が本格化するだろう。スクラップ&ビルドではなく、スクラップ&ダンプになりかねない。

大都市周辺の大規模博物館には圏内外からそこそこ入館者がくるだろうが、それ以外の博物館はどうなるのだろう?大都市周辺であっても、博物館全体の77%を占めて全国に4,428館もあり、それこそどこにでもある歴史博物館、美術博物館に足を運ぶ人がいるのだろうか?国立とか、東京とか、京都、奈良といった冠のない歴史博物館、美術博物館に足を運ぶ人が増えるだろうか?

登録歴史博物館(+相当施設)の平均入館者数が、平成20年で4万5800人ということは、年に300日間オープンしているとすると、1日153人。登録美術博物館(+相当施設)の平均入館者数が、同7万3600人ということは、1日245人が来館することになる。

類似施設はもっとひどい。歴史博物館類似施設の場合、平均入館者数が、平成20年で1万9900人ということは、1日66人。美術博物館類似施設の場合、1日124人だ。

1日66人、あるいは最大でも245人だとすると、コンビニやファーストフード店ならすぐに雇われ店長の首が飛びそうな数字だ。 2012年3月、全国にコンビニは4万4814店舗あり、来店客数は11億9565万人。1日当たりにすると1店舗あたり889人が来店している。

出典:一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会

ま、バカげた比較だとは思うが、過当競争状態のコンビ二は1日に約900人くらい来店してもらわないとやっていけない。そのために、それこそ店先で店長やバイトが声をからして客を呼び込んだり、精算時に客の性別・年齢を入力してデータを取っているし、売り切れの品物が出ないように商品管理に気を配っている。オーナーがバイトの穴埋めで深夜帯に入り、翌日もそのまま夕方まで入るような過酷な労働をやっていても廃業するケースは後を絶たない。

コンビニと同様に博物館も過当競争状態に入っていると認識している博物館は、知恵と工夫で新しい企画を生み出し、新規来場者およびリピーターを呼び込むことにそれこそ心血を注いでいるはずだ。

しかし、これからの人口減少を考えると、どう見ても博物館の未来は光り輝くとは言い難いし、特に歴史博物館、そして美術博物館はこれまでと同じアプローチ、方法論を踏襲していては、淘汰される可能性が大きくなるのではと心配になってしまう。

特に今、博物館を利用するオーディエンスがどんな人々なのかを知らなければ、新しいアプローチやマーケティング施策を企画することはできない。

さて、三重県に平成26年度以降に開館を目指している新県立博物館がある。「新県立博物館基本計画」や「新県立博物館 事業実施方針 ~開館に向けて~」というPDFに欠如しているものがある。それは、博物館を利用するオーディエンスに関する考察がないことだ。そのオーディエンスに対する施策がないということだ。

出典: 三重県 新県立博物館基本計画
出典: 三重県 新県立博物館 事業実施方針 ~開館に向けて~

一般の事業会社であればまず、市場リサーチがくるところだが、それが見当たらない。利用者たるオーディエンスの全国・三重県・近隣県のデモグラフィックス、年1回以上美術・博物館へ行く割合、美術・博物館へ行く年間平均回数、平日・休日の来館割合といった行動パターン、来館目的や美術・博物館に求めるものといった調査が見当たらない。また、オーディエンスが日々、活用しているコミュニケーションデバイスやチャネル、チャネルごとのコンテンツ消費といった分析や、配信チャネルに合わせたコンテンツ制作を検討してゆく必要があるはずだが、それも見当たらない。そして、開館後の活動をどうやってオーディエンスに伝え、広げてゆくかという方法論、マーケティング施策が見当たらない。

一般の事業会社であれば次に、近隣県、名古屋・大阪・京都・東京の同等博物館、すなわち競合の取り組みの考察、ヒアリングや評価がくる。既存マーケティング施策はもちろんだが、メルマガ、ブログ、Facebook、Twitter、YouTube、Ustreamといったソーシャルチャネルを活用し始めている各博物館の取り組みを見るべきだと思うが、それも見当たらない。

また、まだその時期になっていないためなのか不明だが、約120億円の整備事業費を計上しているにも関わらず目標が設定されていない。年間、どういった展覧会を何回、開催して何人の入館者を目指すのかという大前提がなければ、どのような運営をするべきか先が見えないと思うが、見当たらない。

言葉を変えるとマーケティング戦略が見当たらない。インターネットで巨大ブランドを脅かすほどに成長したソーシャルメディアユーザの発信力、共有力を踏まえた考察が見当たらない。それを背景とした現在、今後を俯瞰する戦略が見当たらない。インターネット、ソーシャルメディアがもたらした大きな変化に適合しようと新しい取り組みを始めている各博物館の動きを参照し、戦略に反映させるといった視点が見当たらない。

それとも、「インターネット、モバイル、スマホ、iPad、Web2.0、ソーシャルメディア、YouTube、Facebook、Twitter、FourSquare、Pinterestなどを検討するのは全く不要だ。テート美術館のようにソーシャルメディア・コミュニケーション戦略を構築するのも必要ない」、

参考:マサダ テート美術館のソーシャルメディア・コミュニケーション戦略

「まして、スミソニアン博物館のようにわざわざ、Webおよびニューメディア戦略プロセスをWiki化して内外から多様な英知を募る必要などない」と、考えておられるのでしょうか?
(スミソニアンのWikiへは以下をクリック)


そのWikiによれば、スミソニアン博物館の学習モデルは、スクール形式からオンラインツール及びコミュニティによる小グループと自発的発見のハイブリッド型へ変化するとされている。スミソニアン博物館へのオンラインアクセスを増やすことが、学習を促進する方程式の一部だとしている。


日本でもこういった取り組みがデフォルト化してゆくというマインドセットの切換えが必要だろう。

開館するまでの2年間に、想定していないオーディエンスとの隔たりは修復できないほどに広がらなければいいと思うばかりだ。

博物館の未来は大丈夫でしょうか?

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