2012年6月18日月曜日

金沢21世紀美術館の不思議

公的助成が削減され、「冬の時代」を迎えている美術館が多い中、金沢21世紀美術館といえば、2004年10月のオープン初日に12,200人が入り、247日目に100万人、開館1年目には157万人が入り、2011年8月には入館者が1,000万人を突破したというとんでもないところだ。

当初、初年度30~40万人を目標にして行われた様々な施策、プレイベント、街頭キャンペーン、市内の小中学生4万人の無料招待、子ども券、旅行代理店や地元商店との連携、無料ゾーンと有料ゾーン、アートアベニュー等などは、当時の美術館長、蓑豊氏が詳しく書いている。

出典:超・美術館革命 蓑豊

外に積極的に出て、各方面のステークホルダーと連携して、大きなムーブメントを起こすという蓑氏が行ってきた各取り組みを見るにつけ、「なぜ、金沢21世紀美術館はTwitterをやっていないのか?」という疑問が湧いてくる。

以下は、「集客施設上位のソーシャルメディア対応の現状:その1」からミュージアム部分だけを抽出したものだ。
参考:集客施設上位のソーシャルメディア対応の現状:その1

金沢21世紀美術館だけではなく、国立博物館、国立科学館、九州国立博物館もTwitterはやっていない。国立新美術館はTwitterをやっているとはいっても、フォロー、リプライ、リツィートはしていないし、お気に入りやリストは使っていない。

しかし、独立行政法人国立美術館に属する各館はともかく、いままでやっていなかったことや新しいことをいち早く取り入れるといった気質を前面に押し出していたはずの金沢21世紀美術館がTwitterをやっていない。Facebookもやっていない。それらしいFacebookページはあるのだが公式かどうかは分からない。ご存知の方はご教授ください。ここが不思議だ。

金沢21世紀美術館には、広報室があり、広報ボランティア制度もある。各種割引を受けられたり、年に何度も入館できる友の会制度もある。他の美術館に比べれば非常に充実した利用者サービスを提供している。そして、そのネットワークを駆使、活用したコミュニケーションやマーケティングのツールとしてTwitterやFacebookは使えるはずだがやっていない。

超・美術館革命によれば、「初年度の入場者数157万人のうち、40%が金沢市民で、 60%が県外や外国から来た客だった」とある。だからWebサイトは英語でも表示される。英米だけではなく英語くらいわかる諸外国のオーディエンスに対しても美術館を開いている。

この「英米だけではなく英語くらいわかる諸外国のオーディエンス」のオンラインの活動スペースはどこにあるかというとソーシャルメディアだ。コミュニケーションチャネルとしてのTwitterやFacebookだということは多くのメディアが取上げ、指摘している。だから欧米の美術館はこぞってソーシャルメディア対応を進めている。日本でも同様な傾向が見られるからこそ、国立新美術館だけではなく多くの施設が対応を進めている。

それにも関らず、金沢21世紀美術館はTwitterも、Facebookもやっていない。

どうしてなんだろうと頭を抱えてしまう。

下図は、The Art Newspaperが出している2011年の世界の美術館入場者数ランキングだ。○はTwitterやFacebookに対応しており、×は対応していない。

入場者数トップ30を見ると17位以下の美術館で対応が進んでいないことも事実だ。16位までの先頭集団があり、対応の遅れている色付き第二グループをゴッフォやスコットランド、シカゴといった第三グループが追い上げているようにも見える。
推測だが、多分入場者数が150万人前後の金沢21世紀美術館はこの第二グループに入っているということなのかもしれない。

さて、株式会社インプレスR&Dは、「インターネット白書2012」(監修:財団法人インターネット協会)を出している。それによるとソーシャルメディア人口は5月時点で5,060万人。その65%に当たる3,290万人が投稿や書込みなどなんらかの情報発信を行っているそうだ。
出典:InternetWatch

これだけの人数が活動しているスペースに参加しないのはもったいない。Twitterで毎日、数十、数百のツィートが飛び交っているこの日常をほっておくのはもったいない。ロイヤルファンがそれこそつながろうと差し伸べている手をシカトするのももったいない。

もったいないと思っているのは金沢21世紀美術館も同じだろう。「金沢21世紀美術館の不思議」とは書いたが、多分、内部で色々と策を練り、運用開始の直前まで行っているとは思うので、あっと驚くようなことが近々あるのかもしれない。きっと、ブルックリン美術館にも負けない、「新・超・ソーシャルメディア美術館革命」をやってくれると期待したい。

参考:ブルックリン美術館のクラウドソーシング(速報)
参考:「Click !」から「GO」へ飛躍したブルックリン美術館の舞台裏

2012年6月15日金曜日

「Click !」から「GO」へ飛躍したブルックリン美術館の舞台裏

2008年6月27日~8月10日までブルックリン美術館では、「Click !」という企画展が開催されていた。

これは3段階のプロセスで行われた「Changing Faces of Brooklyn」という展覧会で、まず、アーティストに展覧会テーマに沿った写真を撮って応募してもらう。その後、応募作品すべてをオンラインのオープンフォーラムで審査する。審査結果のランクに応じて展覧会に出品されるというものだ。

この展覧会の元ネタというかアイディアは、2004年に出版された「The Wisdom of Crowds」だったそうだ。(この邦題は「みんなの意見は案外正しい」というちょっと変なタイトルになっているので、今なら集団知とか、集合知とした方がぴったりくる)

「Click !」は、「The Wisdom of Crowds」が言うように、「経験を積んだ専門家と同様に、クラウドがアートを審査することができるのか?」を検証するために企画・開催されたようだ。今までとは違うプロセスで新しいスペースを提供された多くのアーティストやローカルの人々が挙って参加したであろうことは想像に難くない。

2008年にブルックリン美術館はそんなプロジェクトをやっていた。もう、もろ手を挙げて降参するしかない。

ところでこの展覧会を企画・運営したのは、キュレーター・学芸員ではなく、情報システム部長のShelley Bernsteinさんだ。ここでも降参の白旗を上げざるを得ない。

この2008年の「Click !」以降、彼女には沢山の人から、次の「Click !」はいつやるのかという質問が絶えなかったらしい。しかし、同じことの繰り返しではなく、「Click !」から学んだことをベースに違った、まったく新しいこととして、2009年にCurrier Museum of Artから移ってきたキュレーター部長のSharon Matt AtkinsさんとShelleyがブレストを繰り返して、練りに練った企画が「GO」だ。
 この「GO」プロジェクトはすでに5月から始まっている。「GO」に関しては参考を参照してもらいたい。

出典:ブルックリン美術館 2008年展覧会「Click !」
出典:ブルックリン美術館 コミュニティ:Bloggers@brooklynmuseum
参考:ブルックリン美術館のクラウドソーシング(速報)

というわけで2008年の「Click !」から2012年の「GO」へと飛躍したわけだ。

この2つのプロジェクトの要、肝は情シス部長のShelleyだ。彼女は、モバイルアクセス、Webベースのコメントブック、収蔵品のデジタル・オンライン化といった美術館と地域コミュニティを結びつけるミッションを担当し、 上記2つのプロジェクトの企画、立ち上げ、運営などに関っている。

彼女が一体どんな人かというと、2007年4月4日からFacebookを始めている。2009年1月からTwitterを開始、いままでに2,674回ツィート、1,163人をフォローし、2,528人のフォロワーを抱えている。リプライも50%を越えていて多くのユーザと会話、コミュニケーションを行っている。ソーシャルメディアやオープンコミュニケーションの申し子のような人だ。彼女自身が美術館がこれからのコアターゲットだと考えるオーディエンスそのものだ。そして、彼女はアーリーアダプターとして館員に大きな影響を与え、最新情報・知識を共有し、美術館オーディエンスとの新しいコミュニケーションとエンゲージメントの可能性を熱く語っていたはずだ(と思う)。

この彼女がいなければ、そもそも2008年に「Click !」を立ち上げることなどできなかったろうし、そしてその拡張・拡大版である「GO」も陽の目を見なかったことは間違いない。

なぜなら2009年にキュレーター部長になったSharonは、Twitterアカウントは持っているがツィートは一度もしていない。Facebookページも友達以外には公開していない。LinkedInでもそうだ。言い方は悪いが、一般的で保守的なレイトマジョリティの代表のような人だ。ソーシャルメディアの知見が浅い、少ないSharon一人では「Click !」から飛躍することも、新しく大きな広がりを持つ「GO」も進まなかったはずだ。

そして、Shelleyの知見を活かす体制、仕組みが作れ、プロジェクトが遂行できたのは、ブルックリン美術館の上層部が危機感を持ち、オーディエンスに対する新しいアプローチ、オーディエンスのスペースにいかに美術館を参加させるかに心を砕いていたからだろう。旧態依然のロジックやプロセス、自身を含めた既存担当から局面打開策は出てこないという危機感が根底にあるはずだ。

いや、キュレーター、館長、情シス、広報、Web担当など多様な部門、部署の担当者が同じ理解を共有していたからこその話かもしれない。

「ブルックリン美術館の舞台裏」は、危機意識、必要な知見の理解、その共有、トップのイニシャティブ、そしてローカルのアーティストや人々とのオン・オフのコミュニケーションから成り立っている。そのどれが欠けても「Click !」も「GO」も走らず、空中分解していたのが関の山だったろうと自信を持って言える。

あなたのミュージアムには同じような舞台裏が御有りですか?
これからのコア・オーディエンス像をお持ちですか?
アーリーアダプターやレイトマジョリティをご存知ですか?
展覧会企画に学芸員以外の職員が参加できますか?
上記と同様の危機感をお持ちで共有されていますか?

2012年6月14日木曜日

入場者数世界トップ5美術館のTwitter対応

日本の美術・博物館の入場者数トップ5と、世界のそれをTwitterにおける対応で比較してみようとしたが、日本は国立新美術館しかTwitterをやっていないというお寒い現状があるので、比較と言うよりは欧米の現状を見てみた。

The Art Newspaperによるとルーブル、メトロポリタン、大英、ナショナルギャラリー、テートが2011年に世界トップ5の入場者数を誇る美術館だ。 同年、東京国立博物館が163万人で22位、国立新美術館が68万人で80位となっている。
本格的に開始したのが2011年6月のルーブルが少ないのは当然だが、それ以外の世界のトップ5はよくツィートしている。2009年のはじめから開始したメトロポリタン、大英博物館、テート、2010年5月からのナショナルギャラリーにしても数千回レベルだ。

メトロポリタンは5.3回ツィート@日でトップ、テートは4.5回、ナショナルギャラリーが4.3回、大英博物館が3.2回、ルーブルは2.3回だ。メトロが今後も他館をツィート回数で引き離してゆくのは間違いない。(このツィート回数には、リプライ、リツィートも含まれる)

また、各館ともに千人、数百人規模でフォローし、フォロワーはテートが65万人、メトロが46万人。この2館が頭二つ以上抜けている。この2館は「お気に入り」も多く、テートはちゃんと「リスト」も使っている。

テート美術館は「ソーシャルメディアコミュニケーション戦略」を公表し、「文化面での世界最先端のソーシャルメディアプラットフォームになる」というゴールを設定しているだけに、当然も当然だろう。

参考:テート美術館のソーシャルメディアコミュニケーション戦略

その点、メトロポリタン美術館はどうかというと2011年12月ごろ、オンラインコミュニティマネージャを募集していた。何をやるかというと
  • Facebook、Twitter、Flickr、FourSquare、Tumblr、その他のソーシャルメディア・コミュニティを管理、プロジェクト企画・運営・報告
  • ファン、トラフィック、エンゲージメント増加策企画・実行
  • Blogコメント管理・対応
  • SEO対応コンテンツ制作、トラッキング、モニター、対応
  • ユーザフィードバック入手・対応、オーディエンス・レベニュー増加策企画
  • 統計分析
  • コミュニティを管理し、その声となり、ユーザと美術館ステークホルダーの仲介をする
などだ。 そして、求められる経験は、
  • ソーシャルメディア、SNS、ニューメディアトレンドの理解
  • プロジェクトマネージメント経験、Web制作、HTMLおよびPhotoShop操作
  • emailおよびチャネルマネージメント実績
  • 4年以上のオンラインマーケティングあるいはオンラインジャーナル発行経験
となっていて、B.A.と美術界での経験も必須となっている。

まるでIT企業のソーシャルメディアマネージャの募集のようだ。ここまで詳細に業務や経験を並べている求人も少ないのではないだろうか。そんな求人を美術館であるメトロポリタンがしていた。

出典:M&T Online Community Manager - Metropolitan Museum of Art

2011年10月には、10年ぶりにWebサイトをリニューアルしているし、MyMetというサービスもやっている。積極的にソーシャルに出張ってエンゲージメントを拡張しようとしているからこれも当然か。

参考:メトロポリタン美術館のソーシャルメディア対応

さて、フォローやフォロワー数よりも重要なリプライとリツィート率・数を見ると、さすがのテートが合計で45%以上、大英博物館が39%、メトロポリタンが38%、ナショナルギャラリーが33%。まだ1年目のルーブルでも約15%だ。
言いっ放しのメガフォンマーケティング手段としてTwitterを使っているところはなさそうだ。

質問や意見に対応し、会話に参加し、価値のあるツィートを自分のフォロワーに共有することをどこもやっている。 言いっ放しにせず、コミュニティを育成し、美術館へのロイヤルティ向上を目指すには、コミュニティメンバーの声を聞き、意見・苦情に対応しなければならない、ということを理解している。

言いっ放しでもネームバリューだけで相当数のフォロワーがつきそうなテートやメトロポリタンでさえ、地道にエンゲージメントを行っている。だからこそ65万とか46万人といった数を積み上げることができたのだろう。

自分や郷土に関するツィートをボットに拾わせて、自動的にリツィートさせているどこかの国のどこかの美術館とは大きな違いだ。

参考:あまり推奨しないTwitterマーケティング施策

そして、アウトリーチのプロ、エンゲージメントのキュレーター、ソーシャルメディアPRのプロを募集している美術館や水族館を見ると、メトロポリタンだけではなく世界のトップ5は当然、すでにずっと前から手を打っているんだろうなと思わされてしまう。
出典:NowHiringToday

このまま現状維持を続けていてはエンパワーされたオーディエンスに取り残されるという危機感があるからこそ、入場者数世界トップ5の美術館はもちろんのこと、その他の美術館、水族館もオーディエンスにキャッチアップするためにオンラインコミュニケーション、そしてエンゲージメントを進めている。ミュージアムは生き残るためにエンゲージメントから信頼を獲得しようとしている。

そのために、コミュニケーションスキルを持った人材を集め、あるいは内部で教育し、コミュニケーションの大前提である相互信頼を世界のトップ5が獲得しようとしている、というのがTwitterを含めたソーシャルメディアサービス・ツールの現状だろう。

同じ危機感がありますか?
言いっ放しのメガフォンマーケティングでフォロワー数やファン数を増やすことが目的ですか?
リプライやリツィートから相互信頼を獲得することを考えたことがありますか?

2012年6月11日月曜日

集客施設上位のソーシャルメディア対応の現状:その1

ちょっと古くはなるが、2009年度のレジャー・集客施設の入場者数ランキングが綜合ユニコム株式会社から出ている。各カテゴリごとに入場者数トップ5までの施設を出している。

そこで、そのランキングを元にしてTwitterに関する数字をまとめたのが下図になる。
出典:総合ユニコム株式会社 ニュースリリース (pdf)

どのレジャー・集客施設も、基本的にイベントやアトラクション、最新ビデオや画像の告知・案内、ブログ更新を中心としたツィートを行っている。

7つのカテゴリの中で最もTwitter対応が進んでいるがファームパークでトップ5中の4施設が対応済みだ。その次はテーマパークが3施設、遊園地や水族館が2施設、 フラワーパークとミュージアムが1施設で、まったく対応していないカテゴリが動物園となっている。

さて、35施設中、Twitter運用を行っている所は13施設に限られている。その13施設中で9施設しか他のTwitterユーザをフォローしていない。お気に入り機能を使っている所は2施設、リストを使っている所は4施設だ。どの施設もツィート以外はあまり活用していないようだ。

ノート:
  • お気に入り
    他ユーザのツィートをメモ的、備忘録的にチェックしておくことができる。お気に入りに入れたツィートをしたユーザにはメールが送信されるので、誰が自分のどんなツィートをお気に入りにしたのかが分かる。ただし、Twitterは毎回メールを送ってくるわけではないようだ。
    さて、お気に入りを使っていないということは、1)使い方を知らない、2)他ユーザのツィートを見ていない、3)その他の理由が考えられる。
    お気に入りを使っていない施設は、多分、1)と2)が大半だろう。
  • リスト
    10人程度のユーザをフォローし、全部合わせて1日に100件程度のツィートだとすると、毎日チェックすることもできる。しかし、100人、1000人をフォローしている場合、そんなことは無理だ。そこで、カテゴリ分けをして毎日チェックすべきユーザや、特定のテーマごとにユーザをグループ分けして特定グループ(リスト)のユーザのツィートを見ると効率よく、見逃すことなくチェックすることができる。
    さて、リストを使っていないということは、1)使い方を知らない、2)他ユーザのツィートを見ていない、3)その他の理由が考えられる。
    リストを使っていない施設は、多分、1)と2が大半だろう。
  • お気に入りやリストを使っていない施設
    は、大半が使い方を知らないのだろうが、ユーザの声を聞いてない、聞いていたとしても対応しないというケースもあるだろう。
    それは、Twitterからの広報告知が目的で、ユーザ・利用者の声を吸い上げる、あるいは、アクティブサポートを行う体制ではないからだ。

    さて、一方通行のコミュニケーションチャネルとして、昔ながらのニュースリリースや告知・案内を流しているだけで、顧客・利用者・ユーザとの会話を目的としたものではないことがTwitterユーザに分かる日はすぐ来ると思う。

さて、次に、施設別に見ると、東京ディズニーランド・シーがダントツで28万人以上のフォロワーを抱えている。 ただし、USJはこのランキングに入っているレジャー・集客施設中、最も多い3,800回以上もツィートしているし、2万人以上もフォローしており、2指標でトップということになる。

いや、東京ディズニーランド・シーのTwitterがダントツの影響力を持っていると思われる向きもあるだろうが、上で説明したようにフォローしているユーザ数が多い場合、タイムラインをツィートが流れてゆき、個々のツィートを確認することなど不可能に近い。facenaviによると、日本人ユーザの平均フォロー数は325人だ。このフォローしているユーザの中から特別なアカウントをリストに登録して、それを見ているユーザはどれくらいいるのだろう。東京ディズニーランド・シーをフォローしている28万人のうち、何%がツィートを見ているのだろう?

出典:facenavi Twitter日本人ユーザー・データ調査

そこで、TweetStats.comを使って、各アカウントがどのようなツィートを行っているかをもう少し詳しく見たのが下図になる。(リプライには、アカウント名を先頭につけたツィートと、アカウント名が文中にくるツィートも含まれる)
リプライもリツィートもしていないのは、東京ディズニーランド・シー、海遊館、マザー牧場、国立新美術館、そして、リツィートはしているがリプライしていないのがナガシマリゾートということになる。(ナガシマリゾートは施設の情報更新を行うボットだと明記しているので、リプライはせず、マニュアルで2回リツィートしたようだ)

その中で1人のユーザもフォローしていないのが、東京ディズニーランド・シー、海遊館、国立新美術館だ。

フォローされたからフォロー返しするといった単純な構図もあるが、価値のあるニュース・情報・コンテンツを提供してくれるアカウントをフォローする場合、先方がこちらをフォロー返ししなくても別に気にはならない。だから、1人もフォローしていないアカウントも成立する。

しかし、リプライやリツィートはちょっと違う。

レジャー・集客施設のほうで「リプライ」はしませんと明記している所以外、リプライは個別ユーザのツィートに対して返信したり、なんらかの発信内容に個別ユーザのアカウント名を入れたツィートを発信することになるので個別ユーザ対応をしてくれることになる。リツィートは自分のフォロワーに対して個別ユーザのツィートを共有することになるので、その価値を認めたことになる。いずれも顧客・利用者・ユーザの個別対応や彼らのツィートをチェックしていなければできない作業だ。

自分のツィートに対してちゃんとリプライしてくれるのは当然うれしい。そして、「なんらかの発信内容に自分のアカウント名を入れたツィートを発信」された側からすると、ちゃんと自分のことを覚えてくれていることが分かり、これもまたうれしい。

リツィートされたユーザ側から見ると、レジャー・集客施設が抱えている何万人、何10万人というフォロワーに自分のツィートが共有されたことになる。もう、天にも昇る気持ちになる。自分のフォロワーも少しは増えるかと期待するし、リツィートしてくれたレジャー・集客施設に感謝の気持ちが一杯になる。今まで以上のロイヤルユーザになってゆく。

そしてリプライやリツィートされた側は、それを引用したり、リツィートすることで自分のフォロワーに施設との会話を共有してくれる。自分だけではなく、レジャー・集客施設も含めて。

こういったこと、個別ユーザ対応やロイヤルユーザの育成、そしてレジャー・集客施設の露出拡散を排除しているのが、リプライもリツィートもしていないレジャー・集客施設ということになる。


先ほどツィートおよびフォロー数でトップだったUSJだが、リプライが44%、リツィートが14%、3,823回のツィート中58%が他ユーザへのレスポンスとなっていて、USJが各種プロモーションやアトラクション案内をイニシエートしたのは42%(1,609回)となる。リプライ率、リツィート率ともに2位だ。

以下のようにリプライあり、リツィートあり、楽しい会話が成立しているのが見て取れる。
もうひとつ、富士急ハイランドもリプライが46%、リツィートが28%、1,505回のツィート中74%が他ユーザへのレスポンスとなっていて、各種プロモーションやアトラクション案内を行ったのは26%(379回)となる。富士急ハイランドはリプライ率、リツィート率ともに1位だ。

こちらはフォローしたユーザへのフォロー返しを伝えたり、体験を送ってくれた利用者に本当に楽しげに返信している。
リプライやリツィートの面で考えると、USJや富士急ハイランドのTwitterアカウントのほうが、顧客・利用者・ユーザの体験価値を認め、自身のフォロワーに共有している。個別ユーザ対応を行い、ロイヤルユーザ育成を着実に行っていると見える。

レジャー・集客施設のツィートを見てくれているかよく分からないフォロワーを沢山抱えているよりは、個別ユーザ対応や、ロイヤルユーザ育成を行っている方が、コミュニケーションとして成立していると思える。

また、コミュニケーションが成立しているとすると、レジャー・集客施設の露出拡散という面からこの2施設は、フォロワー数だけで判断できない効果を上げているはずだ。

よく、「フォロワー数が1,000を超えました。ありがとうございます」といったツィートを見かけるが、本当に評価、モニターすべき指標は、リプライやリツィート率・数、そして個別ユーザの引用・リツィート数だということになる。(ただし、これを計測するのは難しい)


最後に、集客施設上位のソーシャルメディア対応の現状:その1としてまとめると、
  1. レジャー・集客施設のTwitter対応はまだこれから
  2. 既存のレガシーコミュニケーションの手法をそのまま応用したTwitter活用が目立つ
  3. ソーシャルメディアというオープン、双方向、対等なコミュニケーションチャネルとしてTwitterを活用するという理解ができているのはごくごく少数派
  4. 個別ユーザ対応、ロイヤルユーザ育成を実行できているのはごくごく少数派
  5. 効果指標として、フォロワー数ではなく、リプライ・リツィート率・数を見ている所はいない(かもしれない)
  6. 発信するニュース・情報・コンテンツのキュレーションができていない
ということになる。

6に関しては今回書いていないが、これが本当に肝になる所なので、別途書くことにします。

さて、集客施設上位のソーシャルメディア対応の現状:その2(Facebook)に関しては次回(書くかも...)

2012年6月5日火曜日

あまり推奨しないTwitterマーケティング施策

ある美術館のTwitterアカウントがある。今年の2月からTwitter運用を開始し、これまでに数千回以上ツィートしている非常に積極的な所だ。

そこでTweetStats.comで詳しく見てみた。開始早々の2月と3月は月間1000回以上ツィートしていたが、さすがに4月以降ちょっと息切れしてきたようだ。それでも500回以上のツィートを行っている。
曜日ごとのツィート数を見ても、土日は開館しているとしても、多分休館日であろう月曜日もツィートしている。
そして、時間ごとのツィートを見ると、5時台を除くすべての時間帯でツィートを行ってる。
もう、超人的としか言いようのないほど、積極的にやっているので、フォロー、フォロワー数も2,000、1000台を越えており、相応の効果が出ているようだ。

と、考えるのはまだ早い。

なぜなら、Twitterの発信内容がちょっとおかしいのでは...と、考え込んでしまうほどなのだ。それは、リツィートが全体の90.42%にもおよんでいるからだ。
アカウント名は加工したが、最もリツィートした回数の多いアカウントは124回、次は84回、3番目も74回リツィートしている。

Twitterアカウントを使って自分の美術館の展覧会案内をするのはごく自然だし、自分や美術館、町、郷土、その他に関連する他ユーザのツィートをリツィートすることはある。違った見方や評価を知ってもらうためにも他ユーザのツィートをリツィートすることは意味のあることだ。

しかし、リツィートがつぶやきの9割を越えているのは異常としか言いようがない。

リツィートしたアカウントの上位にくるのは、どうやら美術館アカウントと関連のあるアカウントのようだから、上で説明したようにリツィートする理由にはなる。しかし、上位を合計しても700弱なので、それ以外のアカウントのツィートを丹念に調査して、上位10アカウントの数倍以上のリツィートを行っていることになる。

そんなことが可能だろうか?担当者がおらず、猫の手も借りたいほどの現場で、いちいち自分の施設に関連するツィートをチェックし、発信することができるのだろうか?それも1年365日、1日24時間連続で...?


その疑問は、リツィートされたつぶやきをよく見ることで解決した。どうやら「キーワード検索」を行った上で、それをリツィートしているらしい。他ユーザのツィートをボットに検索させ、それをリツィートさせているらしい。

それだから土日、月~金曜日の区別なく、一日中24時間に近く、絶え間なくツィートすることができるわけだ。ボットだからこそ、休みなくせっせと設定されたキーワードにマッチしたツィートを拾い集め、発信することができる。

もうこれは、Twitterを使った広報でも、マーケティングでも、プロモーションでもない。コミュニケーションチャネルに流すコンテンツの収集を自動化しただけで、オリジナルコンテンツの企画、取材、制作、編集も考えておらず、フォローしてくれたユーザに対して何も考えていない自殺行為に近いと思う。


一般のユーザからすると、自分のツィートを拾ってリツィートしてくれるというありがたい存在なので、そのお返しとして美術館アカウントをフォローする。だから、美術館のTwitterフォロワーを増やすためには効果が出ているはずだ。

しかし、Twitterアカウントを運用する目的は何もフォロワー数を増やすことではない。少ないフォロワーであろうと、身の濃い会話、コミュニケーションを紡ぐこと、その会話のファン・参加者を増やすことのはずだ。そこから美術館へ足を運ぶ人々を長い時間をかけて増やしてゆこうとするのが最終的な目的地、ターゲットのはずだ。

一方、Twitterアカウントを開設しても、外に発信するコンテンツがないため、開店休業に至っているアカウントがそこかしこに存在する。あるいは開設直後から、これでもかとXX案内、YY案内、ZZ案内を連呼しているアカウントもある。アカウントプロファイルに「フォローも、リプライもしません」と明記してコミュニケーションを拒絶しているアカウントもある。

そんなアカウントよりはまだましで、リツィートという手法で自分の美術館、町、郷土などに関連するツィートを連ね、ソフトに美術館の露出、認知、想起を狙っていると見られなくもない。しかし、リツィートが9割以上にもおよんでいるのは本末転倒だと思う。

こんなTwitterマーケティング施策はあまりやってほしくない。

なお、嬉しいことにこの美術館アカウントは、ボットによるリツィート以外のツィートが増えてきているようなので、今後に期待したい。