2012年5月25日金曜日

米国のスキー産業が加速するソーシャルメディア戦略

National Ski Areas Association(NSAA)という組織が米国にある。米国にあるウィンターリゾートの業界団体で、スキー・ボーダーの90%を集客している325の施設が加盟している。他に472社のスキー・ボードの製造、販売などのサプライヤーも加盟している。

そこが1978・1979年シーズンからのスキー場利用者数を出している。2011・2012年の中間報告を含めてグラフ化してみると下のようになる。(縦軸は100万人単位)


1978・1979年シーズンは5,019万人が利用し、2010・2011年シーズンは6,054万人と今までの最高記録を塗り替えたシーズンだった。1978・1979年シーズンを100とした場合、2010・2011年シーズンはインデックス121という歴史的なシーズンだった。ところが、2011・2012年シーズンの利用者は15%ダウンして5,080万人(インデックス101)にまで落ち込んでしまった。

NSAAは、2011・2012年シーズンの中間報告でいろいろと理屈をこねくり回して、降雪量が確保されれば来シーズンには回復するだのと、利用客数の落ち込みを説明している。

もうひとつ、NSAAにはスキー場数の統計もある。その統計と上のグラフを重ね合わせると下のグラフになる。(右縦軸は100万人単位)


統計を取り始めた年がずれているが、1982・1983年シーズンに735か所だったスキー場は2010・2011年シーズンには486か所にまで減っている。当然、年ごとの降雪量などによってオープンするスキー場の数は変動するけれど毎年、減っていることは一目瞭然だ。

1982・1983年シーズンと比べて34%もスキー場数が減少したにも関らず、スキー客は増えていたのが過去10年間だったが、2011・2012年シーズンは過去2番目にひどいという落ち込みを経験したわけだ。

この図から推定できるのは、スキー場が減った分、大都市から近いスキー場、交通の便のいいスキー場、スキー以外のアトラクションを備えたスキー場に利用者が集中している。2011・2012年シーズンはどのスキー場も積雪が少なく利用者が減った。あるいは、交通の便のいい大規模なスキー場が多くの利用者を集め、便の悪い中小規模のスキー場が利用者減少に苦しんでいる。また、2011・2012年シーズンの利用者減少がスキー場の閉鎖を加速させるかもしれず、その結果、大規模スキー場への一極集中化がより進むのではないかということだ。そして、大規模スキー場同士の集客バトルがより激しさを増すだろうということだ。

大規模スキー場、例えばカナダのWhistler Blackcombの場合、年間200万人前後の利用者を集めて2億㌦以上の売上をあげている。その利用者の25%がカナダ、28%が米国、残りの47%が北米以外の海外からとなっている。米国のスキー利用者数が5000~6000万人前後で推移している中、Whistler Blackcombほどではないとしても大規模スキー場はどこも海外からのスキー客売上にその多くを依存しているのではないだろうか。

マーケティング予算がたとえどんなに潤沢であっても、全世界のスキー客にTVCFを打つことはできない。 各国の新聞、スキー専門誌などに広告を出稿することもできない。米国内のマスメディア露出が全世界に波及するわけでもない。各国の旅行業者を集めたスキーパッケージ案内、施設案内をしても効果は知れている。旅行社・エージェンシーが企画、販売した割引ツアーで客数は確保できても、結構なコミッションを支払うことになるので、手間がかかる割には利益率は低く、できることなら中止したい。

それではどうするかというと、北米、特に米国で最も日常生活に浸透し、大きな影響を与えているソーシャルメディアの積極活用だ。英語で発信しておけば、少なくとも米国やカナダにスキーをしに来ようとする利用者・ユーザにはリーチする。米国、カナダというローカルな市場をメインとしながらも、海外の利用者にも訴求することができるのが国境も言語の壁もない、人と人とのつながりやクチコミが広まるソーシャルメディアだ。

FacebookやTwitterを使った新しいコミュニケーションをやるのはもう当然で、以前、紹介したように米ウィンターリゾートのトップ5に入るVailがやっているEpicMixのような新しい取り組みも始まっている。

参考:EpicMixをご存知ですか?

広告予算の規模で露出量が決定する既成メディアとは違い、「いいね!」「シェア」「リプライ」「リツィート」によって露出と共有量が大きく変動するソーシャルメディアを集客施策、マーケティング戦略の中心に据えようとしても驚きはしない。

これは何も大規模スキー場に限った話ではない、ローカル・地元利用者が大半を占める中小規模スキー場にとっても同じことだ。いままで何十年も実施してきた伝統的なマーケティング、プロモーションだけでは、大規模スキー場のソーシャルメディア戦略に根こそぎ利用者を持っていかれてしまう。ローカルな話題やコミュニケーションで地元利用者をつなぎとめるためにもソーシャル化を加速しなければならない。

かくして、米国のスキー産業はソーシャルメディア戦略を加速させてゆく。

そして、これは日本国内にも当てはまることがいくらかはあるのではないだろうか?
また、この話はスキー場だけではなく、他の集客施設、例えば博物館にも...。

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